大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1497号 判決 1988年4月27日
控訴人
光栄機設工業株式会社
右代表者代表取締役
安尾鵄郎
右訴訟代理人弁護士
豊蔵亮
同
植田勝博
右豊蔵訴訟復代理人弁護士
松村剛司
被控訴人
株式会社大塚商会
右代表者代表取締役
大塚実
右訴訟代理人弁護士
吉村洋
同
村林隆一
同
今中利昭
同
松本司
同
釜田佳孝
同
浦田和栄
同
谷口達吉
同
村上和史
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 申立て
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人は控訴人に対し五五三万五四二〇円とこれに対する昭和五七年五月三一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨。
第二 控訴人主張の請求原因事実
1 控訴人はクレーン及びホイスト設備の製造販売等を業とする株式会社であり、オリエント・リース株式会社(原審甲乙事件原告、丙事件相被告。いずれも原判決確定)はリースを業とする株式会社であり、また被控訴人は、各種事務機器等の販売を業とする株式会社である。
2 右三社はそれぞれ昭和五五年八月七日本件コンピューターにかかる本件リース契約(原判決四枚目裏二行目から同五枚目裏三行目までに記載の契約)を締結したのであるが、そのさい被控訴人(売主、サプライヤー)とオリエントリース(買主兼控訴人すなわちユーザーに対するレッサー)は次のような約定をした。
(1) 約定品の品質、性能、仕様、納入条件、その他については、すべて借主の使用目的に合致させることを売主は買主及び借主に保証する。
(2) 約定品に関する瑕疵担保、期限内保証、保守サービスその他売主の便益の供与、義務の履行については、売主が借主に対し直接その責任を負う。
(3) 約定品に品質、性能の不良、規格・仕様の不一致、その他の瑕疵がありまたは売主に納入条件・保証保守義務の違反、その他の約定違背があったときは、その通知が遅延した場合においても、売主は借主または買主に対しその選択に従い契約の全部もしくは一部の解除、補修、代品との引換または損害賠償の請求に応ずる。
3 また、控訴人は右リース契約に先立ち直接被控訴人との間でコンピューター導入につき相談をし交渉をしていたものであり、その結果、同年六月四日両社においてソフトウエアに関する契約(ソフト契約)を締結した。そして、右ソフト契約によると被控訴人は控訴人のため昭和五六年七月末までに次のようなソフト(アプリケーションプログラム)を完成納入し、翌八月から本件コンピューターの稼働可能とすることになっていた(右プログラムの構造については原判決別紙(1)も参照。なお、ハードは昭和五五年九月中に受け入れることになっていた。)。
(一) 売上、仕入ソフト
暦日順に記帳し毎月二〇日〆にて集計。
(二) 在庫のソフト
在庫はユーザー別、工場別、商品別に作表できるようにし、暦日順に記帳し毎月二〇日〆とする。
(三) 原価計算のソフト
(一)、(二)のうち、原価計算に必要な数字を移行利用して、その他の原価計算に必要な数字を加え得意先別、工事別、担当者別、日付別の四種を作成し、各々暦日順に記帳し毎月二〇日〆にて集計する。
しかして、以上で明らかなとおり、控訴人が本件コンピューターを導入した主目的ないし最終目的は工事別原価計算を行うところにあったのであり、このことは被控訴人も承知していたものである。
4 そして、以上の契約中、被控訴人とオリエントリースとの契約は第三者である控訴人のためにする部分を含むところ、控訴人はおそくとも右三社の足並みが揃った昭和五五年八月七日に受益の意思表示をした。
したがって、被控訴人はいずれにしても直接控訴人に対し前記約定ことに2記載の約定にかかる債務を負担したものであるところ、右にいう「控訴人(借主)の使用目的に合致させる」債務とは具体的には次のような内容であった。
(一) 仕入、売上について暦日順に記帳し、毎月二〇日〆にて集計できること。
(二) 在庫について、得意先別、工場別、商品別に作表できるようにし、いずれも暦日順に記帳し毎月二〇日〆で集計できること。
(三) (一)及び(二)のうちから原価計算に必要な数字を移行利用し、またその他の原価計算に必要な数字を加えて、得意先別、工事別、担当別、日付別の四種を作成し、各々、暦日順に記帳し毎月二〇日〆にて集計できること。但し、在庫に関しては有償在庫と無償在庫とがあるので、原価計算に無償在庫の数字が回らないようにすること。
(四) コンピューター操作について全くの素人である控訴人の従業員が、スムースに独力で操作ができるように、各プログラム別にいわゆるメニュー画を作成し旦つ操作マニュアルを作成すること。
5 仮に、被控訴人が控訴人に対し右のような契約上の債務を負担しないとしても、いわゆるリース契約の特質上、目的物件のサプライヤーたる被控訴人はユーザー控訴人に対し(イ)売主の地位と類似の損害担保義務、(ロ)レッサーたるオリエントリースの履行補助者として直接貸主としての義務、(ハ)商慣習に照らし請負契約上請負人が負担する債務と類似の債務のいずれかを負うものであり、その義務ないし債務内容は前記と同一である。
6 しかるところ、被控訴人のソフトプログラム作成については次のような不完全さないし瑕疵が存し、これが控訴人に対する債務不履行となることは明白である。
一 ソフトの基本性能に関する食違い
控訴人の本件コンピューター導入の目的は前記3で主張したとおり「工事別原価」の計算を迅速に行い、もって効率的経営に資するところにあった。しかるに、被控訴人はこれに反し、自ら認めるとおり、「期間原価の」計算を目的とするプログラムを作成し、かつ期間がまたがる場合の繰越機能を具備させる等の工夫も施していない。
しかし、これでは控訴人としては所期の目的を達しえないのである。
もともと、このようなソフト作成作業はSE(被控訴人側サービスエンジニア)とユーザー(控訴人)との共同でなされるべき性質を有する点があるのは事実であるが、そのイニシアティブをとるべきは当然ソフトの専門家たるSE側であり、この作業が不十分ゆえに、ユーザーのニーズと異なる機能しか発揮しないソフトを作り上げてしまった場合の法律上の責任はSE側が負うべきであり、ユーザーのニーズと出来上がったソフトの機能とが著しく異なれば単なる瑕疵の問題ではなく、そもそも履行がないというべきである。
二 操作マニュアルメニュー表示の欠缺
コンピューターソフトは、きわめて専門性の高いものであるに反し、ユーザーは素人であることが圧倒的に多い。したがって、SE側が単にソフトを作成し引き渡すだけではユーザーにとってほとんど意味はなく、SE側としてはソフトをユーザーのニーズに合致するように稼働させるためのケアを行うことが肝要で、これを欠いては、ソフト制作の委託契約の義務を履行したことにならないというべきである。
しかるに、本件では、在庫のデータを原価計算に移行利用する場合の操作方法が文書化されておらず、メニュー表示も作成されていない。控訴人は、本訴訟後、ソフト技術者に依頼して操作方法を知ることに努めたが遂に果たせなかった。被控訴人は、技術者であればシステム設計書を見れば操作方法を見出せるはずであるというが、被控訴人から提供されたシステム設計書が完全なものといえないこともあって被控訴人の主張は不当である。
三 ソフトの未完成
この点については原審で主張したとおりである(原判決六枚目裏八行目から同七枚目裏一二行目まで―ただし、七枚目表七行目の「グクム」は「グラム」の誤記―の(イ)ないし(ホ)の欠陥)。原判決が操作ミスと判断したのは不当である。
7 そして、控訴人は被控訴人の以上のような債務不履行によって原審で主張したとおり(1)リース料三〇四万二九〇〇円、(2)本件コンピューター受入設備準備費五三万六一〇〇円、(3)オペレーター人件費一九五万六四二〇円、各担当額合計五五三万五四二〇円(原判決一七枚目裏三行目から同一九枚目表六行目までを引用)の損害を蒙った。
8 そこで、控訴人は昭和五七年五月三〇日着の郵便でオリエントリースに対し同社の本件リース契約不履行を理由とする契約解除の意思表示をするとともに、被控訴人に対しても前記のような不履行を理由として控訴人、被控訴人間の請負類似契約解除の意思表示をもしている。
9 よって、控訴人は被控訴人に対し右損害金五五三万五四二〇円とこれに対する昭和五七年五月三一日(控訴人が被控訴人に前記受益上の契約等解除の意思表示をした日の翌日)から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 被控訴人の答弁
1 控訴人の主張1及び8の事実と7の事実中控訴人がオリエントリースに二回のリース料(昭和五五年六月一二日に四三万円、同年七月一八日に四七〇〇円)を支払ったこと、被控訴人にフロッピー購入代金合計八万一〇〇〇円及びハード保守料九万〇六〇〇円を支払ったことは認めるが、その余の主張については、以下の主張に反する部分を否認し争う。
本件に関する経過は次のとおりである。
2 まず、被控訴人は昭和五五年六月四日控訴人の本件コンピューター(ハード)にかかる本件リース契約に附随して控訴人との間でソフトウエア作成に関する契約(本件ソフト契約)を締結した。なお、このようにハードのディーラー(被控訴人)がユーザー(控訴人)にソフト作成について有償または無償で援助することを通常サポートするというが、サポート方式には提供型と指導型があり(提供型とはディーラーがユーザーに対して(イ)ソフトウエアの全部または一部を作成し、(ロ)又は、既存のソフトウエアを納品するものをいい、指導型とはユーザーが自己の手でソフトウエアを作成し、ディーラーはただユーザーのソフトウエア作成について、側面的援助(指導)を行なうものをいう。)、本件ソフト契約は提供型の(イ)に属する。そして、控訴人の具体的注文の内容は次の一二種の帳表を作成するためのプログラム作成であった。
(1)売上関係
売掛台帳
売掛集計表
(2)原価計算関係
原価計算表(直受注)
原価計算表(日付別)
原価計算表(ユーザー別)
原価計算表(担当者別)
(3)仕入関係
買掛台帳
買掛集計表
(4)在庫管理関係
在庫表(ユーザー別)
在庫表(工場別)
在庫表(商品別)
在庫無し一覧表(ユーザー別)
そして、そのうち(2)の原価計算関係については、控訴人主張のような「工事別原価計算」の注文などはなく、その各表の注文内容の詳細は次のとおりであった。
(イ)原価計算表(直受注)
ユーザー(工事)順に原価の発生明細を作成したもの。表にプリントアウトされる順序は①ユーザーコードの小さい順、②売上発生年月日の早い順である。例えば、乙第一六号証二〇の形式のもの。
(ロ)原価計算表(日付別)
売上日付別に、ユーザー別(工事別)の原価の発生明細の作表を行い、日付順に帳表を作成するが、その帳表作成の範囲については、必要な範囲において任意に指定することができる。毎月二〇日〆において当然作表されるのではなく、必要な範囲において各作表時において指定するものである。表にプリントアウトされる順序は①売上年月日の早い順、②ユーザー(工事)コードの小さい順、③原価の発生年月日の早い順、である。例えば、乙第一六号証一八の形式のもの。
(ハ)原価計算表(ユーザー別)
工事別に指定期間の原価の集計を行い、ユーザー別に作表するもの。表にプリントアウトされる順序は、ユーザー(工事)コードの小さい順である。例えば、乙第一六号証一九の形式のもの。
(ニ)原価計算表(担当者別)
担当者別、ユーザー別に売上日付別に指定期間の作表を行う。表にプリントアウトされる順序は、①担当者コードの小さい順、②ユーザーコードの小さい順、③売上年月日の早い順、である。売上の計上日時順に表示されるが、日付欄には最終経費の計上のあった日付が表示されるため、工事完成後に売上計上された後、経費が計上された場合には、例外的に最終の原価発生の日付が表示され、日付が並んでいないように見えることになるが、作表の順序は売上の計上された日付順に作表される。例えば、乙第一六号証一六の一四の一の形式のもの。
3 なお、控訴人注文プログラムのシステムフロー全体図は原判決別紙(2)表のとおりであり、インプット、アウトプットの関連は本判決別紙(3)のIO関連表のとおりである。
そして、右別紙(3)表の第五欄で明らかなとおり、控訴人の当初の注文は実は一〇表(A、B、E、F、F'、H'、I、J、K、L)だけであったのであり(なお、別紙(2)表のフロー図上の一部右各符合も参照)、これは昭和五五年一二月完成し控訴人に引き渡した。ところが、その後控訴人側から右のうち在庫管理システムにインプットされたデータを原価計算システムのデータとしてそのまま移行させ利用できるようにし、しかも控訴人における在庫品の特殊性(控訴人の在庫には固有の仕入品と親会社である日本ホイスト株式会社から預かり保管中の無償仕入分との二種類があるため、原価計算システムに移行するさいには後者を排除しておく必要がある。)をも配慮してすることを追加注文された。そこで、被控訴人は別紙(3)表の第五欄と末欄で明らかなとおり、前記一〇表のうちF'をFに吸収し、H'をHのように修正し、またC、D、Gを加え、最終的にはAないしLの一二表とした(別紙(2)表フローの各末端の左肩書アルファベットも参照)。そして、被控訴人はこれを昭和五六年二月には控訴人に引き渡したものである。
なお、ソフトに具体的なデータをインプットするのはユーザーである控訴人側であることはいうまでもない。しかし、この打込みについても被控訴人は半永久的に指導をしているのが実情である。
4 以上のとおり、被控訴人は控訴人の本件リース契約及びソフト契約にかかる注文を、後日の追加注文も含め完全に履行したものであって、控訴人が主張するような不履行はない。控訴人は昭和五七年二月自社の都合で一方的にコンピューター導入を廃すること決し、やがてオリエントリースへのリース料を払わなくなったため同社から本件甲乙事件(原審で控訴人敗訴確定)を起こされ、やむなく被控訴人を右紛争に巻き込み丙事件を提起したにすぎない。
以下控訴人の当審主張に対し、次のとおり反論する。
一 控訴人の主張6一のソフトの基本性能に関する食違いなどがないことはすでに述べたとおりである。控訴人が主張するような「工事別原価」計算ソフトの注文ないし指示を受けたことはない。被控訴人側のサービスエンジニアはハード搬入後控訴人から拒否された昭和五七年二月まで毎週一回ぐらいの割合で控訴人方に赴き作業に専念している。
二 同二で主張する操作マニュアルメニュー表示の欠缺もない。被控訴人は控訴人に対し本件コンピューターのアプリケーションプログラムを納入するに際し、操作マニュアル(丙第二〇、同第二一号証)を交付し、更に、右各マニュアルに従い控訴人の従業員に対し具体的な操作方法を指導し、控訴人の従業員等が理解し易いように簡明な操作マニュアルをも作成させた(丙第一九号証)。ただし、プログラム納入後、控訴人の依頼に基づき細部について多少の変更は加えられたが、これは控訴人からの特別の依頼に基づくものであり、プログラム自体の手直しというほどのものではない。控訴人は在庫に関するデータを原価計算のデータとして移行させるシステムについての操作マニュアルが文書として存在しないといい、被控訴人もそれが文書化されていないことは認める。しかし、これは追加注文にかかるものであったことと、あえて文書化するほどのものでなかったことのためであり、他意はない。いま、右のマニュアルを前例にならいいまあらためて文章化すると次のとおり簡単である。すなわち、「(1)在庫に関するフロッピー(目録一九)を〇〇、原価計算のデータに関するフロッピー(目録一八)を〇一の各ディスプレイ装置に装着する。(2)画面に『RUN』の表示が出た後(丙第一九号証のマニュアル一枚目file_3.jpgの後、起動するまでの操作はフロッピーを除きすべて同じ)、(3)KECZ〇1(別表(2)のシステムフローの原価欄右上『入出庫データ』の下参照)、FIL=KELMLを呼び出し、(4)画面の指示に従う。」このように使用フロッピーを覚え、アルファベットと数字の組合わせをメモしておけば十分足りるものである。現に原審における控訴人代表者本人尋問の結果によっても、控訴人において本件コンピューターにデータを入力したり、作表をしたりしたことは明らかであり、このように同操作を控訴人において行い得たことはとりもなおさず被控訴人の納入したアプリケーションプログラムの操作マニュアル及び具体的な口頭指導に従い操作したことを示しているのである。
三 同三で主張するソフト未完成の点も全くない。この点に関する被控訴人の主張は原審で主張したとおりである(原判決二一枚目表六行目から同二二枚目表末行まで。)。
5 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求には応じられない。
第四 証拠<省略>
理由
1 控訴人主張の請求原因事実1は当事者間に争いがない。
2 昭和五五年八月七日オリエントリース(レッサー)、被控訴人(サプライヤー)、控訴人(ユーザー)の三社が控訴人主張のような本件コンピューターにかかるリース契約を締結したこと、すなわち、要するに、被控訴人がオリエントリースに本件コンピューターを売却し、オリエントリースがこれを控訴人に賃貸する法形式を採った一種の信用供与を伴なった物融契約をしたこと、及び右被控訴人とオリエントリースとの契約においては控訴人のため控訴人主張のような特約(主張2の(1)ないし(3)の特約。要するに、被控訴人は控訴人のため本件コンピューター使用目的に合致させるように便益の供与等をすることを直接の義務として負担するとの特約)をしていること、以上の事実は被控訴人もこれを明らかに争わないから自白したものとみなす。
3 また、<証拠>を総合すると、(イ)控訴人と被控訴人は右リース契約に先立つ昭和五五年六月四日直接本件コンピューター使用に必要なソフトウエアに関する契約を締結したこと、(ロ)その内容は被控訴人がその主張2で主張するタイプのうちいわゆる提供型サポート方式(被控訴人側がユーザーである控訴人の注文に応じ希望のアプリケーションプログラムを全面的に作成し交付する方式)であり、その代金は基本料―システム分析設計指導料―七〇万円、プログラム作成料出力(アウトプット)帳票一帳当り二〇万円合計一〇帳分二〇〇万円であり、控訴人はこれを支払ったこと、(ハ)控訴人が注文し被控訴人がこれに応じたプログラムの内容は被控訴人がその2で主張するとおりであり(別紙(3)表参照)、そのシステムフローを図解すると別紙(2)表のとおりであったこと、(ニ)なお、右のうち在庫データを原価計算データに移行する原価作成3(KECZ01)―別紙(2)表原価欄右上「入出庫データ」の下部分―の部分は当初の一〇票が作成された昭和五五年一二月前後の頃控訴人が追加注文したことによるものであり、最終的には一部票の修正吸収により一二票(別紙(2)表のフロー各末端AないしLの各票)とすることになったこと、以上の事実が認められる。
(なお、<証拠>によれば、被控訴人は本件コンピューター(ハード)が控訴人方に搬入された昭和五五年一〇月以降右ハードの保守点検にも当り、同年一二月一日―当初の注文ソフトが完成された頃―には正式に控訴人と有効期間を昭和五六年六月一日から一年間とするハード保守契約をも締結し―それまでの期間はサービス期間として無償―、以来控訴人がこれをことわった昭和五七年一月まで右保守の義務を履行していたことが認められる。しかし、本件では控訴人はハード自体に関する瑕疵その他の主張をしていないからその詳細は判断の限りでない。)
4 そして、以上2、3の事実によれば、被控訴人はオリエントリースとの間で第三者控訴人のために前記2認定のような契約をし、控訴人はその頃黙示で被控訴人に対し右契約につき受益の意思表示をしたことが認められるのみならず、控訴人は被控訴人との間で直接3認定のようなソフト作成に関する有償契約をしたことが明らかで、控訴人、被控訴人間の法律関係としては右両者を一体として考えるべきである(そこで、以下これらを一体として本件ソフト契約という。)。なお、以上のような事実関係からすると被控訴人の右ソフト契約上の債務を本件コンピューター(ハード)の賃貸に伴なう単なる附随義務と解することは相当でない。
したがって、被控訴人は控訴人に対し右の範囲で、かつ、右契約の特性(専門技術性)に応じた方法で右ソフト契約上の債務を履行する義務が存したことはいうまでもない。
しかし、本件ソフト契約にさいし、控訴人が当審において強調するような「期間別原価計算」でなく「工事別原価計算」のソフト作成が特約されたことを裏付けるに足る確証はない。
5 そこで、次に被控訴人の右債務の履行状況等について検討する。
<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。
(イ) 被控訴人側では右ソフト契約後その義務を履行するため、SE(サービスエンジニア)丸田修一らを控訴人側に派遣し、控訴人側の本件コンピューター使用目的を聴取し、前記のような当初のシステムフローを作成するとともに当初の一〇票のアプリケーションプログラムの作成を引き受け、これを昭和五五年一二月一日完成して引き渡すとともに、その操作マニュアル、運用マニュアル等を記載した書面も作成交付し、口頭指導もした。そして、右マニュアル文書には一応の口頭説明を伴なえば特に専門技術知識のない者でも十分操作可能な程度の記載はなされている。
(ロ) ところが、その後控訴人側が前記3(ニ)認定のような追加注文をしたので被控訴人側はこれに応じ、被控訴人の主張3第二段のような経過をたどって前記プログラムを一部修正吸収追加作成し、結局、昭和五六年二月AないしLの一二票を完成交付した。ただし、右追加注文にかかるプログラム(在庫関係データを原価計算データに移行させるもの)に関する操作マニュアルについては特にこれを前記のような書面にして交付することはしなかった(このことは被控訴人も自認している。)。しかし、これは被控訴人が4二の第二段で主張するとおり、先のマニュアルに準ずれば非専門家でも十分操作可能であったためで他意はなく、口頭説明に留めたものであった。
(ハ) 他方、控訴人側も早期の本件コンピューター稼働を目指し、ほぼ毎週一回の丸田の出張援助を受けて右アプリケーションプログラムヘデータインプットを急ぎ、昭和五六年九月には専門オペレーター三名(女性)をも雇用した。
なお、右データインプットのさい控訴人側は二回ばかり操作を誤りデータ破壊をしたこともあったが、データのインプット自体はソフト契約の債務内容ではなかった。
また、原価計算関係データ中の人件費等のデータのインプットはその内容の性格上控訴会社代表者自身がこれに当るというのでその作業が遅れるといったこともあった。
(ニ) しかるところ、控訴人側はやがて従来行なっていた自社直接受注方式の業務を廃し、日本ホイストから発注の仕事一本に営業を縮小することになった。そこで、昭和五七年二月被控訴人側SE丸田に「よくやってくれた。もう来なくてもよい。営業担当を寄越してくれ。」と述べ、その頃被控訴人側にソフトの不備などを主張し、先のオペレーター三名も解雇し、同年五月末にはオリエントリースと被控訴人に本件コンピューターのリース契約等を解除する旨の意思表示をし(このことは当事者間に争いがない。)、その後リース料を払わず、本件紛争となった。
以上の事実が認められ、一部右認定事実に反する前掲控訴会社代表者の供述は前掲各証拠に照らし採用せず、他に右認定事実を左右する証拠はない。
6 ところで、控訴人は本件ソフト契約について被控訴人の債務不履行を主張するので、以上のような基本的事実関係に照らし、以下その当否について検討する。
(一) まず、本件において控訴人が主張する被控訴人の本件ソフト契約上の債務不履行を通覧するに、それはいずれも債務のいわゆる不完全履行をいうものであり、かつ本件コンピューター(ハード)が正常であること先に認定したとおりであることからすると主張の各不履行はいずれも追完可能なものであると解されるところである。しかるに、控訴人はこれらを追完不能であるかのように主張しこのことを前提として本件ソフト契約を解除し、填補賠償と目される損害費目の支払いを請求していることが認められるのであって、控訴人の本訴請求はすでにこの点においてその基礎的事実関係とそごするところが存するといわなければならない。しかし、本件においては右の点は暫らくおき、進んで控訴人主張の債務不履行の存否について検討する。
(二) まず、控訴人の主張6一(ソフトの基本性能に関する食違い)について考えるに、成立に争いない乙第二三号証の一、二及び当審証人河原正隆の証言によれば、被控訴人側が作成した原価計算関係ソフトは所定期間内の原価(期間原価)が集計される仕組みになっており、これによると工事毎の原価を知ることが場合により容易でない(所定期間の始期または終期にまたがる工事の場合売上げ代金は当該期間内計上されても、仕入れ等の原価はその前また後の期間内に計上される等のことが生ずる。)ことが認められ、前掲河原証人(大信機器株式会社ソフト制作係長マイクロコンピューター応用システム開発技術者)は右の点について、要旨「このようなソフトは会計原則にも反し、ユーザーのニーズに応えうるものではなく、欠陥ソフトというに値いする。」旨強調しており、現在のコンピューターの技術水準からすれば繰越機能を付与すること等によって工事別原価計算ソフトの作成は容易であり、かつ普及していることを窺い知ることができる。しかし、控訴人が当審で強調するにもかかわらず、本件においては、控訴人が「工事別原価計算」ソフトを明示して注文したと認め難いこと前記のとおりである。また、成立に争いない丙第三〇号証(会計辞典)によれば、会計上原価の概念は多様で、いわゆる間接費等については期間原価も一定の意義を有するものであって、その目的にもよるが、期間原価を営業上のニーズに合致しないと一概に断定することも困難である。
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(三) 次に、同二の主張(操作マニュアルメニュー表示の欠缺)についても前記認定事実及びこの点に関する前記田中証人の証言によれば控訴人主張のような不完全さを認めることは困難である。被控訴人が当初注文分のアプリケーションプログラムについては非専門家の引用参照に耐えうる操作マニュアル書を作成提供していることは先に認定したとおりである。また、追加注文分については敢えてこれを書面にするほどの必要をみず、口頭の説明で十分であり、かつこれが履行されていることも先に認定したとおりである。ソフト契約の内容の技術的特性からして被控訴人側には十分な便益供与義務が存することは控訴人主張のとおりであるが、いま被控訴人側に右の点で欠ける点があったと断定するに足りる確証はない。かえって、一般に契約目的達成のためには当事者双方の信頼関係に基づく相互協力が必要であるところ、前記認定事実によれば控訴人側は専ら自社の営業縮小の都合で、中途から本件コンピューター使用の当初の必要性が失われたため所期の契約目的達成に消極的となったのではないかとの疑念を払拭しえないところでもある。
そうすると、右の点に関する被控訴人の債務不履行もこれを認めることはできない。
(四) さらに、同三の主張(ソフトの未完成)についてみるに、当裁判所も、右の点に関する控訴人の主張は失当であると考えるものであって、その理由とするところは次のとおり附加訂正するほか原判決説示のとおりであるからこれをここに引用する(原判決三五枚目表八行目から同三八枚目裏三行目まで)。
右引用にかかる原判決理由中の(二)の認定を支持する証拠として成立に争いない丙第二四号証の一ないし七、第二五、第二六号証の各一ないし三、様式により真正に成立したと認める同第二七、第二八号証を附加し、また右引用の(二)の認定事実に反する乙第一七号証の一(大信機器株式会社代表取締役大木信二の所見書)は本件ソフトを十分検証した段階のものといい難いから採用しない。また、原判決三七枚目裏二行目から六行目までを「(1)被告大塚商会側が提供した操作マニュアル書及び口頭指導に従えば、在庫関係データを原価計算関係データにそのまま移行できる。」と訂正する。
(五) ところで、ひるがえって本件紛争の発端についてみるに、様式により真正に成立したと認める乙第一八号証(前記河原正隆の別の所見書)の一部及び前記河原証人の証言によれば、もともと控訴人が本件で主張し要求するようなソフトの作成は本件コンピューターの性能上不可能ではないが、その対価が二〇〇万円ていどというのは低額に過ぎ、それにもかかわらずこれを請け負ったのはソフト技術者としては安易にすぎるというのであり、これによると、本件においては、控訴人が当初本件コンピューターを導入しようとしたさいの思惑と現実との間に開差が存し、この点が控訴人をして導入中止を決定させた動機の一つであることもまた否定し難いように思われる。しかし、上来の認定判断によって明らかなとおり、控訴人側の右のような思惑違いはたかだか控訴人の本件リース契約ひいては本件ソフト契約締結の動機というほかない点であって、これによる結果をすべて直ちに被控訴人側に帰責させることはできない。
7 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求はその余の点について検討するまでもなく失当として棄却すべきである。
8 よって、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今富滋 裁判官遠藤賢治 裁判官畑郁夫は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官今富滋)
別紙(1)、(2)<省略>